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東京高等裁判所 昭和44年(ネ)134号 判決 1969年6月20日

被控訴人 駿河銀行

理由

一、当事者間に争いのない事実および被控訴人の抗弁事実の一部の認定につき、原判決理由欄の冒頭から原判決原本四枚目表二行目までの記載を引用する(ただし、原判決原本三枚目裏八行目の「定め」とある次に「(弁済期については当事者間に争いがない。)」と挿入する。)。

二、預託金というものは、不渡手形を返還した金融機関が手形債務者の依頼によりその者に対する不渡処分を免れさせるために手形交換所に提供する目的で受け取り、これを右金融機関が自己の名において手形交換所に提供するのであるから、別口不渡の発生等のため異議申立提供金が右金融機関に返還されたときに右委任事務は終了し、預託者たる手形債務者にこれを返還すべき債務が発生するものと解すべきである。そして、《証拠》によれば、被控訴人から異議申立のため沼津手形交換所に提供されていた金一〇四、七〇〇円の金員が被控訴人に返還されたのは、昭和四〇年一二月一八日であることが認められるから、本件預託金の弁済期は同日到来したものと解すべきである。

控訴人は、原審以来預託金の弁済期は転付命令の送達された昭和四〇年一〇月二四日であると主張するが、なんら根拠のないことであり、また、異議申立提供金が手形交換所から被控訴人に返還される前であつても不渡通知があれば預託金の返還義務が生ずるとする当審における控訴人主張第一の一(1)は、前示預託金の性質にかんがみれば到底採用することができないし、さらに、被控訴人ないし手形交換所が故意に異議申立提供金の返還時期を遅らせた等特段の事情の認められない本件においては、右返還時期を現実に返還された時期を無視して別口不渡の通知のあつた同年一一月三〇日頃であるとみなすべきであるとする論拠もまた見出しがたいから、当審における控訴人の主張第一の一(2)も採るに足りない。

三、被控訴人と厚木との間の手形取引契約における期限の利益喪失約款の差押債権者に対する効力については、当事者間に争いのあるところであるが、その当否についての判断はしばらくおき、かりにこの点に関する控訴人の主張に従うとしても、被控訴人主張の相殺の自働債権たる貸金債権の当初の約定による弁済期が昭和四〇年一二月一一日である以上、遅くとも同日には弁済期が到来することは明白である。

四、以上の認定によれば、本件被差押債権たる被控訴人の厚木に対する預託金返還債務と被控訴人の厚木に対する本件貸金債権とは対当額の範囲において相殺適状にあり、しかも後者の弁済期は前者の弁済期よりも先に到来したものと認められるから、後者を自働債権とし前者を受働債権として昭和四三年一一月二五日午後一時の原審第三回口頭弁論期日において被控訴人が控訴人に対してなしたこと明らかな相殺の意思表示は有効というべきであり、これによつて控訴人の差し押えかつ転付命令を得た本件預託金返還請求権は消滅に帰したものというべきである。

よつて、本件預託金返還請求権の履行を求める控訴人の本訴請求は失当として棄却すべきであり、これと同旨の原判決は正当であつて、本件控訴は理由がない。

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